【書評】ワイズカンパニーを読みました
CX事業本部の阿部です。先日、RSGTのキーノートで本書の著者である野中先生のセッションを聞きました。その中で本書の内容に触れた部分があり、興味が沸いたので読んでみました。
どんな本か
企業が知識を創造してイノベーションを起こしていくために必要なリーダーシップのあり方を豊富な事例と理論から述べたものです。
なお、90年代に「知識創造企業」で書かれた内容のアップデートで、アップデート元の「知識創造企業」の内容にも触れていますので、この1冊から読み始めてもいいかと思います。
書かれていること
- SECIサイクルからSECIスパイラルへの進化
- 企業で知識創造が起きる際のモデル
- 暗黙知と形式知の行き来と創造の繰り返しとして表現(SECIモデル)
- 本書では共通善と実践が知を深めていく縦の要素として追加され、3次元のモデルとなっている(SECIスパイラル)
- ワイズリーダーシップ
- 共通善と実践知を兼ね備えているリーダー
- 企業の根本的な差は、思い描かれる未来像の違いから生まれる
- 「いま・ここ」での遂行力
- 共通善は主観的なビジョンから始まる
- 実践知にとって大事なのは三現主義(現地、現物、現実)
- 善の価値判断を含む知識を実践を通して内面化するサイクル
- 共感が必要(人に本質を伝える力)
- 必要に応じてマキャベリズムを用いる(創造性、柔軟さ、日和見主義)
- 共通善と実践知を兼ね備えているリーダー
- 知の種類(エピステーメー、テクネー、フロネシス)
- エピステーメー→なぜを知る
- テクネー→いかに、を知る
- フロネシス→何をすべきかを知る
- フロネシスがその企業の根本的な差になる
- 矛盾のトレードオフではなく両方取ることを考えていく
- 高い次元のビジョンから見て達成を考える
- 実践を通じてしかできない
所感
本書で触れられているSECIスパイラルは、事例を元に共通項から帰納的に導き出したモデルです。そのため、何か導入してすむようなフレームワークがあるわけではありません。そういう事情もあって、簡単に「こういうシーンで役立ちます」と言いづらい本ではありますが、「知識創造企業」や他の本からも積み上げていった事例の説得力はあります。このモデルではありませんが、同著者による論文がScrumのアイデアのベースとなり、ソフトウェア開発プロセスにおいて多くの実績を出しているという点も、説得力につながっていると思います。
個人として振り返ってみると、ある程度このモデルを意識して情報のやりとりから設計して作った制度は学びが多いように思います。モデルをフレームワークのように使うのは危険ですが、実現される流れにモデルで示された一貫性があるかどうか、という検証のためにも良いと思いました。
ページ数は多いですが、時間をかけて読む価値のある本だと思いました。